今月のコラム(This month's column)
10OCTOBER
2021
気候変動でも取引網(サプライチェーン)全体の情報開示の必要性が高まっている。
Scope1・2と同様に、Scope3 の削減対策においても、マテリアルフローやエネルギーフローの分析の視点は重要です。
Scope3 は、自社の外の排出を削減する必要があります。そのため、サプライヤー等の外部のステークホル ダーと協力して削減対策を行う必要性が発生し、意思決定プロセスがより複雑になります。
また、当該ステークホルダーの資金面・ノウハウ面での企業体力が弱かったり、排出削減に対する意識が低かったりすると、対策の実行の難易度がさらに上がってしまいます。
自社にとっての Scope3 排出は、サプライヤー(あるいはサプライチェーンの更に上流の生産者/サプ ライヤー)にとってのScope1・2 の排出となります。
つまり、対策の内容自体は Scope1・2と同一ですが、その対策を社外のプレイヤーに実施してもらうことがこのアプローチの肝になります。
金融庁は上場企業など約4000社に対し、気候変動に伴う業績などへの影響を開示することを義務付けすることを検討しています。
スコープ3(Scope3)を含めた削減目標の設定をを促す国際組織「SBT(Science Based Targets)イニシアティブ」の参加企業は9月中旬時点で1780社あり、国別では英国の293社が首位で米国288社、日本161社と続きます。
特にスコープ3の削減目標の開示について現状では日本企業は危機感が欠如しています。欧州では環境対策が十分でない国からの輸入品に事実上の関税をかける国境炭素調整措置の導入を現在検討中です。(対象をスコープ1・2・3のどれにするかは未定です)
導入されればスコープ3の削減に踏み込めていない企業の製品は、将来的に輸出できなくなる可能性すら出てくるのです。
外部圧力も高まっています。オランダの地方裁判所は21年5月英蘭石油大手の「ロイヤルダッチ・シェル」に対してスコープ3を含めたCO2の削減を命じる判決を出した事実があります。
企業はCO2を削減するにはコスト増になると考えがちですが、発想の転換からその先も見えてきます。それはビジネスチャンスであり、自社の排出量削減は他社のスコープ3の削減を意味するからです。
現状の知識やデータではサプライチェーンの末端までの排出量の把握は容易では無い現状から、国は排出量の算出方法の国際的な基準を早く見極め、国際的な議論から取り残されないように枠組み等を早急に整備する必要があります。
なぜなら来年(2022年)4月に現在の一部上場を整理した最上位の「プライム市場」が新規形成され、選ばれた400社にはスコープ1・2・3の開示が条件化される予定で、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言内容を金融庁は参考にしているからです。
その提言内容というのは
①スコープ3が温暖化ガス排出量全体の40%以上を占める場合は開示する。
②気候変動に伴う事業・戦略・財務に及ぼす影響
③リスクと機会に対する取締役会の監督体制
④リスク管理のプロセス
以上4項目を開示することになっています。
なお金融庁は2023年以降には有価証券報告書を提出している企業全体に開示を求めることとしています。
既に、日立製作所は2019年度に排出した温暖化ガスのうち96%がスコープ3だったとし、3年間で1.5兆円の研究開発を投じ脱炭素に向けてサプライチェーンを含む排出量を正確に把握できるITシステムの開発に充てることにしています。
トヨタ自動車は、直接取引する主要部品メーカーに21年度の二酸化炭素排出量を前年より3%減らすように要請しました。
花王はインドネシアの現地企業と組み、化粧品や洗剤に用いるパーム油原料を生産する5,000の農園について技術支援を通じて従業員らの生活環境の改善に取り組む計画です。
アサヒグループHDは、2022年までにコーヒー豆生産者などのサプライヤーに対して長時間労働や強制労働を含む人権侵害への対応や予防を求める「人権デューデリジェンス」を実施しています。
このように取引先を含めた削減は既に始まっているのです。
今後市場に投資を呼び込むためにも、サプライチェーン全体でのESG(環境・社会・企業統治)対応は企業にとって緊急の課題になっています。
Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(都市ガス・灯油・重油等の燃焼、工業プロセス)
Scope2 : 他社から供給された電気、地冷からの冷水・温水・蒸気等の使用に伴う間接排出
Scope3 : Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社サプライチェーンからの排出)
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