今月のコラム(This month's column)

12DECEMBER

2021

COP26と、その後の日本の課題

 英国で開かれていた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)は13日夜(日本時間14日午前)、成果文書「グラスゴー合意」を採択し、閉幕した。世界の気温上昇幅(産業革命前比)を1.5℃以下に抑える努力を追求すると明記したほか、石炭火力発電の段階的な「削減」に向けて努力することを初めて盛り込んだ。
合意では「1.5℃以下に抑える努力を追求することを決意する」と明記し、1.5℃を目指す姿勢を強調。
さらに22年末までに必要に応じて各国の30年の排出削減目標を強化、再検討することを要請した。
石炭を巡っては、排出抑制対策を講じていない石炭火力発電について「段階的な削減に向けた努力を加速する」ことを盛り込んだ。さらに非効率な化石燃料への補助金も段階的に廃止するとした。
COPの合意文書に石炭の制限に関する文言が盛り込まれるのは極めて異例な事である。

COP26の主な成果
・産業革命前からの気温上昇
1.5℃が事実上の世界目標に
・削減目標の見直し
来年までに1.5℃目標に沿った見直し
従来の5年に一度の見直しから毎年の見直しを呼び掛ける
・石炭火力発電
排出削減策の無い火力発電を段階的に削減
・化石燃料への補助金
非効率な補助金を段階的に廃止
・途上国への補助金
2025年までに倍増
・各国による削減目標の見直し
150カ国以上が更新
今世紀半ばごろの実質排出量ゼロも
140カ国以上に
・有志国間の連合
メタン削減、ゼロエミッション自動車、
脱石炭火力発電、森林保護などで多数の国が取り組み
を約束
・国際排出枠の取引ルール
2013年以降に国連に届け出た排出枠を2030年の削減目標に算入
可能にする。

日本に残る難題

・途上国への資金援助

 今回の合意文書では、温暖化へ備えるため、その対策への支援として25年までに少なくとも倍増させるように促しているが、2020年までに年間1千億ドルの資金援助をするというパリ協定の約束すら果たせていない。

・石炭発電

 合意文書で「削減する」と明記された石炭火力発電は、日本にとっては大きな課題だ。
地球環境産業技術研究機構の試算では、再生エネ比率が54%、原発が10%、将来の発電が期待されている水素・アンモニア発電13%、CO2回収装置付火力発電23%という電源構成の場合、その電気料金は現在の約2倍になると言われている。
蓄電池などの大幅な製造コスト低下等の技術革新がなければ確実に電気料金の値上がりにつながる。

・既存住宅の脱炭素化

 大手住宅メーカ等でつくる「住宅生産団体連合会」の試算では、120 ㎡ の住宅を省エネ住宅に改修する場合、最大で新築の省エネ住宅を建てる場合の約1/2の費用がかかるとされる。
政府は補助金で普及を促す方針だが、日当たりの悪い地区や、雪国では、政府の言う太陽光パネルを載せることが無理な地域もかなり存在し、「より発電効率の良いパネルや、低費用で設置できる蓄電池開発等技術革新が必要」だとの見解を示している。

EU国境炭素税、2026年から全面実施

 欧州連合(EU)欧州委員会は2021年7月14日、地球温暖化対策の計画案を示した中で、環境規制の緩い国からの輸入品に課税する「国境炭素税」の導入を発表した。
温室効果ガス排出量の多い鉄鋼、セメント、肥料、アルミニウム、電力の5品目を課税対象としている。
課税対象が温室効果ガス排出量の多い鉄鋼やセメントなど5品目となり、日本企業への影響は限定的だ。
その根拠は、足元のEUの輸入に占める日本の鉄のシェアは1%、また、アルミニウムやセメント、肥料に至っては0%(いずれも2020年暫定値)とわずかなためだ。

 今後、世界各国で炭素価格の高騰と炭素税や国境調整措置の導入が進む場合、二重カウントや二重課税の排除の問題が生じることも懸念される。

 日本における石油石炭税および地球温暖化対策税は個別消費税に該当し、法人税・所得税を対象として整備されている租税条約において、二重課税が調整・解消されることはない。
これは他国の炭素税でも同様である。特に国境調整措置が導入されると、例えばEU域内に製品が輸入される際に、EUでの事業者が課されている炭素税相当が徴収されることが予想されるが、輸入製品ごとの炭素価格を決定するにあたって、排出量を適切に算定できるか、生産国と同様の排出量の計算になるかなどの疑問も生じる。

 また、EUでは、EU-ETSの導入に伴い、対象事業者は、年間排出量報告書を管轄当局に提出するため、認定検証機関による検証を受ける必要があることから、二酸化炭素の排出量を検証する機関が存在している。一方、日本でも、東京都環境局に登録されている第三者検証機関など検証を行っている機関は存在し、複数の検証機関が国際的に統一的な温室効果ガス排出量の算定ルール等を定めたISO14064や14065といった国際規格に基づく検証を行っていると思われる。
こうした各国の検証の基準などの統一も、適切な課税を行う上で重要なインフラとなると考えられる。
環境省会議において炭素税に関する見解が次の様に発表されている。

 日本政策投資銀行グループの価値総合研究所の試算では、税額が増えるほど削減にはつながるが経済の押し下げ効果も大きい。しかし税収の半分を省エネ設備投資の補助金に還元すれば税額を据え置くよりも30年の実質GDPが大きくなったとしている。
また国立環境研究所によれば、単純に1万円に増税すれば30年の実質GDPは0.9%縮むが、税収を企業や家庭の省エネ投資に使うと減少幅が0.1%に抑えられたとした。

 炭素税を実行する場合、企業や家庭は既に石油石炭税や揮発油税、石油ガス税、軽油引取税(都道府県)、電源開発促進税等を各エネルギー料金の中で既に負担している。
再生エネ関連ではFITによる負担もあるため、それら既存制度の整理も必要になってくる。
また、EUでは、EU-ETSの導入と電源構成の見直し等で1990年から約30年間でGDPが63%伸びた一方で排出量は23%減らしているが、日本では同期間でGDPが32%伸び排出量は3%増えている。

その原因は、産業構造の転換が進んでいないことの現象でもある。
再生エネを大量に導入すると発電量の変動を吸収するための整備にコストが増大する。
年間5兆ドルのエネルギー投資で30年の世界のGDPが4%高まるとの試算もある。

 一方、企業の視点からは、今後あらゆる産業で直接的・間接的にカーボンプライシングによる炭素価格の負担が増加し、経営課題として顕在化することが予想される。

 日本でも設備投資におけるインターナルカーボンプライシング(既に上場企業160社が採用)の設定といった脱炭素の取り組みをビジネスモデルに組み込む施策が、すでに開始されている。
こうした状況において、企業は、カーボンプライシングの導入が進行する経営環境において、次のことが求められると考えられる。

  • カーボンプライシングに係る法制度の動向把握
  • 既存ビジネスへのインパクト分析や対応
  • 新規投資・事業撤退・M&Aにおいて将来のカーボンプライシングの動向を考慮したリスク分析
  • カーボンプライシングを考慮した経営計画の最適化

 しかし負の一面として、産業部門のエネルギー起源CO2排出量のうち、5割弱を占めながら確立した脱炭素技術の方向性が見透せていない鉄鋼業界などは、CPによる負担だけで削減には繋がらないと経産省は指摘し、CPには消極的である。
現状、省エネ、脱炭素改修を行った場合5年での投資回収を実現するためには3~5万円/t-CO2程度の税率が必要と推計され、現時点では国民の理解を得るのは、難しいと言わざるを得ない。
中小企業も新技術を導入する体力が乏しいと日本商工会議所も強制的なCPに反対している。

 今後、日本企業の排出削減の取り組みが、国際的に正当に評価される制度を早急に作らないと、海外展開の足かせにもなりかねない。
国際的な議論の動向を踏まえることが欠かせないであろう。

 他方炭素税は、石炭、石油、ガソリンなど化石燃料の消費に課す税金で、最終商品への価格転換が進みやすく企業から家庭まで幅広く排出削減努力を促す効果が期待できるが、低所得層の負担が重くなりやすいことが課題となっている。

 11月19日自民党の宮川洋一税制調査会長はインタビューで「炭素税について検討項目で大きな方向が書ければ」と述べ、12月にまとめる2022年度与党税制改正大網で今後の方向性を示すことを明らかにしている。
最後に東京都のCP(東京都環境確保条例に基づく温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度)をまとめ上げた三菱総研は炭素税について次のように予測している。

 卸電力市場と連動して適切な炭素価格が決定されれば、電源間の経済性の順位は劇的に変わるだろう。
自社の電力需給モデルを用いた分析によれば、石炭火力よりもLNG火力や一部再エネの経済性が上回り、2030年46%減に見合った電源構成(原子力10%、再エネ35%、石炭火力10%、LNG火力45%程度)が実現される炭素価格の水準として13,000円/t-CO2程度と推計している。さらに、2050年脱炭素化に向けて6万円/t-CO2以上に上昇する可能性も示唆している。

European Union Emission Trading Scheme 
欧州連合域内排出量取引制度



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