今月のコラム(This month's column)
2FEBRUARY
2022
カーボン・プライシングの導入に関して
グリーン成長戦略には、
- 「市場メカニズムを用いる経済的手法(カーボンプライシング等)は、産業の競争力強化やイノベーション、投資促進につながるよう、成長戦略に資するものについて、既存制度の強化や対象の拡充、更には新たな制度を含め、躊躇なく取り組む」
- 「国際的な動向や我が国の事情、産業の国際競争力への影響等を踏まえた専門的・技術的な議論が必要である」
などと明記された。
この期に及んで、わが国でカーボンプライシングの議論を封印することはできなくなった。
いま反対している企業に対しては、成長戦略に資するカーボンプライシングを示すことで、納得してもらうことが得策と思われる。
では、そのような政策はありうるのか。
その 1 つになりうるのが、エネルギー諸税について CO2 排出量比例の課税を拡大することと同時に、その税収を脱炭素化を早期に実現するための設備投資や技術革新に用いるような循環経済化させることである。
わが国で炭素税といえる税は、地球温暖化対策のための税(温対税)のことを言う。
ただ、温対税の税率は CO2・1 トン当たり 289 円で、主な炭素税導入国の中では極端に低い水準にある。
温対税以外に石油石炭税や揮発油税などのエネルギー諸税があって、これらの課税を炭素排
出量換算すると、CO2・1 トン当たり約 4000 円になると経済産業省は試算している。
しかし、エネルギー諸税は CO2 排出量に比例していない。
その背景には、製鉄プロセスで石炭が必要な鉄鋼業や石炭火力発電に依存する電力業、さらには灯油を多用する 寒冷地住民への配慮として地方揮発油税の全額、製造事業者に対する石油ガス税の 1 / 2、空港保有都市への航空機燃料税の 2 / 9、原発所在地への電源開発促進税の全額の還付等がある。
2019 年の例から分析すると税収 4 兆 6 千 180 億円、税収のうち石油石炭税は基本的に石油備蓄や石炭開発等に専用投資されているのでその残額を 2019 年度 CO2 排出量 1,123,120 千トンで割ると CO21 トン当たり 2,940 円になる。
長期大幅削減に向けては、イノベーションが不可欠
誰かがイノベ ーションを起こすことを待っていても状況は変わらない。
カーボンプライシ ングにより共通の方向性を広く社会全般に示していくことで、あらゆる主体の創意工夫を促し、社会の隅々でイノベーションを起こしやすい環境とする ことが求められている。
また、排出の 4 割を占める電力部門については、長期大幅削減に向けて、その脱炭素化を前提として非化石電源の更なる普及が必要である。
今後の経済の流れを考えると、CO2 排出に係るコスト削減をはじめ、CO2 排出削減や森林管理などによる CO2 吸収量をクレジットとして取り引きすることで利益を上げたり、クレジットの購入を含めた CO2 排出量削減への取り組みで企業の価値を確保していくことは重要なテーマになる可能性は非常に大きい。
現在実施中のこれらカーボンプライシングにより、世界の GHG 排出量の 21.5%がカバーされているという。
2010 年時点での導入数は 19 に過ぎなかったので、過去 10 年で 3 倍以上に増加したかたちだ。
ただし、課税や取引制度の対象は国・地域によりばらばらで統一されていない。また、様々な理由で対象免除も多いので、単純な比較が難しい点に留意が必要だ。
炭素税は、1990 年にフィンランド、ポーランドで導入されたのを皮切りに、欧州を中心に導入が進んだ。
日本でも 2012 年に、地球温暖化対策税(温対税)として導入。
CO2 換算で 1 トン当たり 289 円が化石燃料(原油、天然ガス、石炭)の購入時に課税されている(注 1)。
ちなみに先進国以外では、導入例が少ない。ただし、メキシコ、チリ、南アフリカ共和国などの例がある。
当たり 2,800 円(うち温対税分 760 円)〕なども課税されている。これらを含めて炭素税と捉えるべき、との見方もある。
一方、ETS(Emissions Trading System) を初めて導入したのは EU で、2005 年のことになる。
その EU-ETS では、域内(EU 加盟国に加え、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー)の対象企業(発電や石油精製、製鉄、セメントなどエネルギー多消費産業)に対し、排出量上限(キャップ)が割り当てられる。
その過不足分を市場で取引する仕組みだ。
なお、EU-ETS 価格は 2018 年以降、上昇傾向にある。とりわけ、EU が GHG 削減目標を引き上げた 2020 年 12 月以降、急激に上昇しており、2021 年 12 月 8 日現在で、CO2 排出 1 トン当たり 90 ユーロを超える水準となっている(図参照)。
カーボンプライシングは、現状では、先進国を中心に導入が進められている。ただし、国際社会全体で気候変動対策への機運が高まるなかで、有力な政策ツールの 1 つとして、今後は新興国、開発途上国での導入も拡大していくと見込まれている。
EU で先行して導入の準備が進められている炭素国境調整もその 1 つの要因となりうる。
炭素国境調整は GHG 排出規制の緩い国で生産された産品のコスト競争力が高まって輸入がえる上、そうした国へ生産拠点の流出が進むというカーボンリーケージへの懸念が導入の背にある。
カーボンプライシングを導入する場合、どの程度の価格が目指されるのであろうか。国際エネルギー機関(IEA)は、 世界全体で 50 年ネットゼロを達成するシナリオにおける先進国の炭素価格を 30 年に CO2 排出量 1 トン当たり 130 ドル、50 年に同 250 ドルと予測している。
経済産業省が 2022 年 2 月 1 日、脱炭素に積極的な企業による「GX(グリーントランスフォーメーション)リーグ」の基本構想を公表した。
参加企業は政府が掲げる 50 年の脱炭素実現に賛同し、30 年度時点の削減目標も示す。商品の製造から廃棄までの排出量を表示する「カーボンフットプリント」などを進め、削減目標の進み具合を毎年公表する。
政府(内閣府)は、先進的なリーグ参加企業に対し次のような優遇措置を検討している。
- GX リーグへの参加企業への ESG 投資の広がりを期待
- 脱炭素が進んだ企業への補助金や政府調達で優遇
- リーグへの参加を義務とする規制への移行も視野に入れる
- 環境省へは欧州と比べて水準の低い炭素税の見直しを検討要請
その他排出量取引に向け「カーボン・クレジット市場」もつくる。企業が省エネ機器の導入や再生エネの利用で目標を上回って削減した分を、「クレジット」として国が認証する。目標を達成できなかった企業は、不足分に見合うクレジットを買えるようにする。
企業が達成しやすい目標を設定しないように、クレジットを入手できる企業には制限もある。
国の 30 年度の削減目標(13 年度比で 46% 削減)より厳しい水準を設定した企業を対象とする方向だ。
22 年秋に実証試験を始め、23 年 4 月以降の運用開始をめざす。経産省は大企業を中心に 500社程度の参加を見込んでいるが・・・・・。
改めて GX リーグ基本構想とは
産業競争力を高めていくためには、カーボン ニュートラルにいち早く移行するための挑戦を行い、国際ビジネスで勝てるような「企業群」が、 自ら以外のステークホルダーも含めた経済社会システム全体の変革 (GX: グリーントランスフォー メーション ) を牽引していくことが重要である。
そのため、GX に積極的に取り組む「企業群」が、 経済社会システム全体の変革のための議論と新たな市場の創造のための実践 を行う場として「GX リーグ」を設立する。
GX リーグの目指す循環構造
企業の意識・行動変容が新たな市場の創造を通じて、生活者の意識・行動変容を引き起こし、それがまた企業の意識・行動変容につながる “循環構造” により、企業の成長、生活者の幸福そして地球 環境への貢献が同時に実現されることを指す。
将来的に必要となる排出量を調整する仕組みを踏まえ、「GX リーグ」においても、 自主的に掲げた目標値を達成するための自主的な排出量取引の仕組みを措置し、これを将来の仕組みに向けた準備のための取組として位置づける。
CP(注 2)は温室効果ガスの排出量削減における実効性が高いだけでなく、経済全体にかかるコスト負担が最も低くなるように促す制度であり、温暖化対策と経済成長を両立するうえで伴となる政策となっている。
ゆえに、わが国としても CP を気候変動対策の主軸に据え、強化していくことが求められる。
具体的には、 温対税の引き上げを含めた炭素課税の拡大や、全国レベルの排出権取引制度の導入を通じて、実効炭素価格を排出目標に見合った価格まで引き上げるよう、誘導すべきなのだろう。
また、補助金など産業政策を行う場合には、CP の実効性と効率性を損なわない制度にする必要がある。 とくに、わが国の気候変動政策において目玉となっているグリーン成長戦略の実行にあたっては、低コ ストで一定の排出量を削減できると期待されるものだけに限定するのも方策の一つと考えたい。
21 年度環境省の炭素削減量 1 トンにつき七千七百円(上限 5000 万円)と初めて炭素価格を明記しての中小企業向け補助金を公募したことは特筆されるものである。
これらの取り組みを進めることによって、温室効果ガス排出量が削減され、炭素生産性も改善し、そして最終的には 2050 年カー ボン・ニュートラルの実現へとつながっていくと考えられる。
二酸化炭素の排出に対して価格付けをする温暖化対策の仕組
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