今月のコラム(This month's column)

2FEBRUARY

2021

「2050年実質ゼロ」に向けて

 50年をターゲットにした産業界の脱炭素の取り組みは一部で始まっている。
日本航空の赤坂祐二社長はの株主総会で「高い目標を達成する世界初のエアラインになる」と述べ、50年にCO2排出量ゼロを目指す方針を示した。
国際航空運送協会(IATA)の目標は50年に半減だが、それを上回る高い目標を示した。
欧州などのコロナ対策の政府支援の手法として興味深いのは、CO2 削減を実質的に企業に義務付けている国が多いことである。
 たとえば、オーストリア航空、エアフランスなどの航空会社に対する政府支援の際の条件が CO2 削減となっている(国内線の縮小や CO2 排出の少ない燃料の使用など)。
カナダでも、大企業に対する政府支援の条件として CO2 削減方法の開示を求めている-----等がある。
 国際石油開発帝石は、製造過程における上流部門でのCO2の回収・貯留を進め水素の製造供給の事業化を目指すとして2050年にはCO2の排出量を実質ゼロにすると発表した。
 トヨタ自動車は、全世界の工場のCO2総排出量を50年にゼロとする目標を公表、30年には13年比で35%削減を目指す。ホンダも50年の実質ゼロ達成目標を掲げている。
 経団連の中西宏明会長は、菅首相の所信表明に対し、「50年CO2排出実質ゼロという野心的な目標の英断を、高く評価する」とコメントし、脱炭素技術を含めた「グリーン成長」を日本の成長戦略にすることを近く提言するなど、政府と歩調を合わせる。
3メガバンクの投融資では、いずれも新設の石炭火力発電への融資を取りやめ、中長期的に既存の融資残高を減らす方針である。
 ある銀行幹部はこう話す。「顧客との話題は、これまでDX(デジタルトランスフォーメーション)だったが、今はSDGs、ESGの話、一辺倒だ。首相の“カーボンニュートラル”発言で、ますます企業はSDGs、ESGへの意識が高まるだろう」
 日本生命保険は26日、今年4月から、株式や社債、不動産など全資産で、投資判断に非財務情報の視点を取り入れるESG(環境・社会・企業統治)による評価を踏まえて投融資を判断すると発表、野村アセットメントは、非財務情報だった企業の二酸化炭素排出量をコスト換算(3,034円-CO2/t)し、財務情報に組み込んで投資判断に活用するなど、金融サイドの姿勢も、脱炭素社会へのシフトを後押しすることになる。
また、日立製作所や住友金属鉱山は21年度から設備投資をする際の判断基準としてCO2排出量を評価するとしている。既存建物群に対してのグリーン電力化に対して大手不動産業界の動きは次のようになっている。
三菱地所は「新丸ビル」を含む丸の内周辺ビル30棟を2022年度までに、東急不動産は、2021年4月に渋谷周辺ビル15棟全てを、2025年度までに全国の保有ビルに対してグリーン電力化を実現する。
三井不動産は2021年4月に「東京ミッドタウン日比谷」に導入、丸の内の「鉄鋼ビル」は今年1月にグリーン電力を導入済みである。
ヒューリックは、所有するオフィスビルに対して今後入居の決め手となるのはグリーン電力だとし、再エネへの投資を強化し1000億円を投じて自前の再エネ利用の発電所を建設する。
 米国の大きな動きとして、バイデン米大統領は27日温暖化ガスの排出削減を目指す大統領令に署名した。
併せて「グローバルな対策を主導しなければならない」と世界を牽引する意欲も表明した。
米国は「パリ協定」に復帰するのに伴い削減目標を、4月に開催する気候変動の首脳会合「サミット」までにつくらなければならない。
前政権が離脱していたためまず2030年の目標を設定する必要があり「30年までにその排出量を05年比で半減させる」など高い目標設定を求める声が多い。
27日の大統領令では、連邦政府管理地における石油・ガスの新規開発を止めることも明記している。
洋上風力のエネルギー生産量を30年までに倍増するとも掲げた。それに対して菅首相は脱炭素を含む気候変動問題で28日、協力すると電話会談で合意した。
 なおバイデン政権は、カーボンプライシング(CP)を全米に広げる方針だ。
菅首相はCP導入には前向きだが日本国内では産業界に反対論が多い。また製造段階で温暖化ガスを大量に発生した輸入品に税を課す「国境調整措置」もバイデン政権は検討していることもわかった。
実現すれば日本からの対米輸出に影響が大きい。
米国金融界バンクオブアメリカのアン・フィヌケーン副会長は、「プロが運用する資産総額110兆ドル(約1京1400兆円)のうち、すでに4割がESGを考慮した運用でその割合は増加の一途を辿っている」と語っている。
 環境問題は、外部不経済※1の代表的なものであり、市場に任せるだけでは、最適な資源配分を実現することはできない。
この問題の解決にあたっては、地球規模の問題であるだけに、直接的規制、補助金といった政府介入ももちろん必要になるが、同時に環境負荷のコストを明示的に考え、その費用負担を市場メカニズムに組み込む方向で考えることも重要である。
こうした点で、米国をはじめ各国で導入、または導入が検討されているのがカーボンプライシング(CP)である。
 CO2排出の外部不経済を内部化するには、カーボンプライシング(炭素税、排出権取引) ※2によってこれを市場化する方向で検討することは重要である。
カーボンプライシングは、すでに世界で 42 の国、25 の地方政府が導入または導入を検討するなどの動きがある。現時点では因果関係は明確ではないが、多くの国で炭素価格の引き上げを伴いながら、炭素生産性や一人当たり GDP を向上させている、との指摘かもある(環境省[2019])。
今年(2021)1月現在、日本におけるカーボンプライシング(CP)への評価は政府でも二分されている。
 環境省の意見として、すでに先行している有識者会議において炭素税を視野に入れている。
排出権取引においては、排出上限(キャップ)の設定に難しさがあるのに対し、炭素税は温室効果ガスの排出量に応じて課税するため仕組みが簡素。
化石燃料に既に課税されている既存税制との整理は必要であるが、企業に脱炭素分野への投資を促す観点からも支持している。
 一方経産省は、排出権取引の方に賛同的である。その理由は、企業などの排出量の上限を設け排出の権利を市場を通じて売買でき、企業の削減努力が目に見える形で対価になり、市場取引を通じて効果的に全体の削減を達成できるとしている。

 今、我々は属する産業に関係なく、「脱炭素に向けた行動を起こすべき時」である。

外部不経済:市場の外部に市場の取引によって生まれた不利益が影響を及ぶすことで、工場による空気汚染や旅客機の騒音などが外部不経済に当てはまります。 炭素税、排出権取引:これら2つはいわゆる明示的カーボンプライシングと呼ばれるものである。このほかの「暗示的炭素価格」として、エネルギー課税、規制の順守コストなども含めて議論されることもあります。


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